大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 平成3年(行ウ)13号 判決

原告

岸覚(X)

右訴訟代理人弁護士

大土弘

被告

岡山県長船町長(Y) 松村敏夫

右訴訟代理人弁護士

宇山謙一

加瀬野忠吉

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  前記争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

1  長船町では、昭和五六年に公共下水道事業の計画立案作業に着手し、昭和五七年の基本計画書の策定、昭和五八年の右事業計画の認可を経て、同年から整備工事に着手した。本件事業により各家庭に下水道を引くには、長船町が公道下の下水本管及び右下水本管に接続する公共汚水ます(公私境界線から私有地側二メートル以内の部分に設置される)を設置し、右公共汚水ますから各家庭汚水ますまでの部分の設置費用は住民個人が負担することになる。

2  右事業計画の当初においては、受益者分担金については、面積割による方法と水洗化に伴う経費負担の考え方から、水洗化の利便に伴う負担額を分担金全体の約四割とし一戸当たり八万円、負担の公平に伴う単位負担金額を分担金全体の約六割とし一平方メートル当たり二〇〇円とすること(以下「第一案」という。)が考えられており、本件公共下水道事業の対象となる地元にもその旨説明されていた。

3  ところが、第一案は平成二年ころ、事務処理の便宜に資すること、資産価値に着目したものであること、他の多くの自治体で採用されていることから、土地面積のみを基準にする方法に変更され、受益者分担金総額を総事業費約一〇億円の約八パーセント、国庫補助の対象にならない単独事業費二億六三二〇万円の約三〇パーセントに相当する七九四〇万円としたうえで、一平方メートル当たり五〇〇円とする案(以下「第二案」という。)に変更され、第二案を内容とする公共下水道事業受益者分担金条例案が平成二年七月の長船町議会に提案された。しかし、右町議会において、地元に対する第二案の理解が得られていないのではないか、下水道事業には面積だけでなく人口や世帯数も影響を与えているのではないか、本件事業の対象区域には比較的面積の狭い(四〇〇平方メートル以下)新興の団地と、比較的面積の広い従来から居住している農家や団地があり、第二案は新興団地に圧倒的に有利な案ではないか、今後の下水道事業に禍根を残さないように更に慎重な検討が必要ではないか等の意見が相次ぎ、第二案は否決された。その後、平成三年一月の定例町議会に本件条例が提案され、賛成多数で可決された。

4  本件条例の本件分担金の算定方法の考え方は以下のとおりである。

長船町では、本件事業の事業費(総事業費約一〇億円、内訳国庫補助事業費七億三六八〇万円、単独事業費二億六三二〇万円)のうち、他自治体の例を参考にしながら、単独事業費(末端管渠事業費)の約三〇パーセント(総事業費の約八パーセント)に当たる七九四〇万円を受益者負担金総額とすることとした。具体的な算定方法については、土地面積比例方式が平成二年一二月の議会で否決されたこと、戸数ごとの一律分担金方式では不公平な場合が出ることから、一戸当たりの定額部分に加算額部分を加算する方法によることとした。定額部分については水洗化による利便性を五割とすることが最も説明がつきやすいことから、定額部分五割、加算額部分五割とした。加算額部分の算定方法は、人数割の方法や建坪割の方法も検討されたが、一人当たりの金額の格差が大きくなり不公平になる場合が出ることや人数や建坪の確定方法に難があることから妥当でないとされ、結局、格差が比較的少ないことや認可当初の考え方であることから土地面積割の方法が採用されることとなった。右方法によると、加算額部分総額三九七〇万円を本件事業対象地区の宅地面積一五万八八〇〇平方メートルで除した一平方メートル当たり二五〇円が加算額基準となる。

5  本件事業の対象となった長船町長船地区は戸数三八五であるが、各戸ごとの土地所有面積は大きく異なり、土地面積四〇〇平方メートル以下の長船団地一六〇戸や一戸当たり一〇〇〇平方メートルを越えるところもあり、全体としては四〇〇平方メートル以下の戸数が全体の約七五パーセントとなっている。

6  本件事業により公共下水道が整備されると、本件事業対象区域では、便所の水洗化、台所や風呂場からの排水や雨水の衛生的処理が実現する。

二  そこで本件分担金の適法性につき以下検討する。

1  まず地方自治法二二四条の負担金制度が、特定住民に利益のある事業の財源調達と住民相互間の負担の公平の観点から設けられた制度であることに照らすと、同条の定める「利益」とは、必ずしも金銭に見積もり得る経済的利益に限らず、当該事業を利用することによって生じる便利性、快適性という生活上の利益を含み、本件分担金が同条の「受益の限度」を越えないものかどうかは、受益の性質、程度、事業の性質及び事業費等を考慮して衡平の観点から社会通念上判断されるべきであるが、受益の限度を越えない範囲において、どのような算定方法を採るかは、普通地方公共団体の合理的な裁量に委ねられているものと解される。

そこで、本件条例の算定方法について検討するに、本件事業が実施されると前記一6認定の整備がなされるから、本件事業の対象地区の環境が改善され、未整備地区に比べて利便性、快適性が著しく向上し(快適環境居住利益)、結果として、当該地域の土地の資産価値が増加する利益(資産価値増加利益)が認められる。本件条例と第二案による土地面積別の負担金額は別表のとおりであり、前記一4、5で認定した事実によれば、本件条例の基本的発想は、長船地区では所有土地面積四〇〇平方メートル以下の戸数が七五パーセントであることから、第二案では所有土地面積四〇〇平方メートル以上の残りの二五パーセントの戸数に負担が偏るおそれがあるから、それを避け、快適環境居住利益は住民が等しく享受するところから一戸当りの定額部分に面積に応じて加算する方法を採ったものであり、計算上の根拠として説明の容易さから快適環境居住利益部分と資産増加利益部分とを同額にしたのである。本件分担金の土地面積ごとの負担額は別表のとおりであり、原告の負担金額は一五万六三九〇円であるが、右各金額は、前記一認定の本件事業内容、本件事業費総額、本件事業による受益の内容、程度に照らし、「受益の限度」内にあると認められる。そして、本件分担金の算定方法は、前記本件条例の基本的発想や具体的算定額、同条の「利益」内容、前記一認定の本件条例の制定経緯に照らし、長船町に認められた合理的裁量の範囲を逸脱するものではないというべきである。

2  また、原告は、快適環境居住利益は分担金徴収の具体額と比較することができないから、地方自治法二二四条の「利益」には資産価値増加利益のみが該当し、快適環境居住利益は該当しないと主張するが、右「利益」に金銭的に見積りにくい生活上の利益が含まれることは前記のとおりであり、受益と個々の分担金との比較は、受益の性質、程度、事業の性質及び事情費等を考慮して社会通念からみて受益者の限度を越えるものか否かの観点から決すれば足ると解されるから、快適環境居住利益が算術的に計算できないことをもって、同条の「利益」たり得ないと解することはできない。

三  以上のとおり、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 池田亮一 遠藤邦彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!